“エクササイズスナック”とは?実はおやつでも飲み屋の事でもないのです
「運動は薬」外来のブログ第10回目です。
今回は、エクササイズスナックという言葉についてご紹介します。
スナックとは、間食、軽食といった意味ですが、日本ではスナックバーの短縮形としてカウンターバーの意味合い(立派な和製英語)まであります。エクササイズスナックと聞いて、“運動時の間食”、とか、“運動が出来るスナックバー”、を思い浮かべた方がいるかもしれませんが、そうではなく、“間食のように短時間で済ませる運動”のことを指しています。では、何故エクササイズスナックという言葉が生み出され、最近、注目されているか、説明していきたいと思います。
米国の運動に関するガイドラインでは、健康維持、疾患予防のために週に150分以上の中等強度の身体活動、または75分以上の激しい強度の身体活動を推奨しています。この基準を満たすには週3~5回で実行すると、1回につき15分~50分の運動の継続が必要になります。では、10分に満たないような、さらには1~2分程度の非常に持続時間が短い運動に健康価値はあるのか、という問いに関心が集まるようになり、英国バイオバンクを用いた観察研究がなされ、2022年にその結果が報告されました1)。この研究では、ウエアブルデバイスの加速度計を用いて、加速度数値から身体活動の強弱を判定し、連続的に記録して定量的評価を行いました。ここで評価される日常生活中の断続的な高強度の身体活動vigorous intermittent lifestyle physical activity(略してVILPA)には、例えば通勤中の速歩や移動中の階段昇降などが当てはまります。25000人(平均年齢62歳)を対象としたこの研究の結果として、1日に3回程度の1~2分程度のVIPLAを行った人達は全死因とガンでの死亡リスクが38-40%減少し、心血管病での死亡リスクが48-49%減少したと報告されています1)。
この結果から、前々回のブログで紹介したHIITよりもさらに短い時間の運動でも健康維持、疾患予防に十分役に立つことが明らかとなりました。そこで、エクササイズスナックという言葉が使用されて、短時間の高強度運動を日常生活の中で意識して実行していきましょうと呼びかけられるようになっています。実際のエクササイズスナックの例としては、先程挙げた速歩や階段昇降の他、デスクワークなどのsedentary(第4回のブログに書いていますが、座ったままの動かない状態)の合間にスクワット、もも上げ運動、腕立て伏せ、などをすることでも実施可能です。ただ、高強度にする必要があるので、息が上がる、脈が早まるような状態になる程の強さ、速さで体を動かしてほしいと思います。なかなかまとまった運動時間は取れないことはあるかと思いますが、生活の中で工夫してこのエクササイズスナックを行い、健康維持、疾患予防を図っていただければと思います。
文献
1) Nat Med. 2022 (12):2521-2529.
“運動は薬”外来の詳しい内容はこちら
https://www.miyanomori.or.jp/undou/
<プロフィール>
鐙谷 武雄(あぶみや たけお)
当院副院長、専門は脳神経外科で、中でも脳血管障害(基礎研究に長らく従事してました)
運動習慣は、出来るだけ毎日のストレッチと8㎏ダンベルでの筋トレ、週2回程度のランニング、不定期の10分間HIIT(高強度インターバルトレーニング)、たまのゴルフです。