ビタミンサプリが運動効果にどんな影響を与える?
今回の第17 回目のブログでは、ビタミンサプリの服用が運動効果にどのように影響するかについて紹介したいと思います。
ビタミンは、各栄養素(糖質・脂質・タンパク質)の代謝や体内の様々な機能の調節に関わる重要な栄養素です。しかし、ほとんどのビタミンは体内で作ることが出来ないため、食事から摂取する必要があります。
特にビタミンCやビタミンEは「抗酸化ビタミン」として知られ、活性酸素の働きを抑え、老化、がん形成、動脈硬化の抑制に寄与します。身近なところでは疲労回復、美容、健康増進を目的にサプリメントとして広く販売されています。さらに抗酸化作用がスポーツアスリートの疲労回復やパフォーマンス向上にも効果があるのではないかと期待され、多くの研究が行われてきました。しかし、その研究結果を見ると、これらのビタミンサプリが必ずしも運動に良い影響を与えるとは限らず、むしろ逆効果の可能性も指摘されています。
例えば、ビタミンCに関する総説論文では、高容量のビタミンC投与を行った14のランダム化比較研究をまとめた結果を報告されていますが、そのうちの3つの研究では、運動による筋肉ダメージの血液マーカーの改善が見られましたが、残りの11の研究では、筋肉ダメージとその痛み、運動パフォーマンス、トレーニング効果に対してほとんど変化がなく、むしろ負の影響も認めたとされています1)。またビタミンEについても、複数の研究結果を統合したメタアナリシスの結果で、運動後の良好な回復を助ける効果はなかったと報告されています2)。動物を用いた基礎研究でも同様のことが示されており、ネズミに運動トレーニングをすると、持久力が向上し、運動継続時間が延長するのですが、前もって高容量のビタミンCを投与すると、運動トレーニングによる持久力の向上効果が消失してしまうことが確認されています3)。
このような現象が起こる理由を理解するには、運動のトレーニング効果の生理学的メカニズムを知っておく必要があります。運動すると筋肉から活性酸素が産生されます。活性酸素は過剰なると細胞にダメージを与えますが、適度に産生されると活性酸素は細胞内シグナルとして働き、抗酸化酵素(スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼなど)の発現を促進し、細胞内のエネルギー産生装置であるミトコンドリアの生合成や代謝適応を促進します。これがトレーニング効果として、筋力、持久力の向上につながると考えられています。しかし、高容量の抗酸化ビタミンを摂取すると、活性酸素が必要以上に抑制され、この細胞内シグナルとしての作用が阻害され、その結果、運動のトレーニング効果が十分に得られなくなると考えられています。
ただし、今回紹介した抗酸化ビタミンの負の作用は、あくまで高用量のビタミンサプリを摂取した場合の話であり、通常の食品から摂取する程度のビタミンCやビタミンEの量であれば特に問題は起こりません。ビタミンが欠乏することは体の機能を損なうことになりますから、バランスの取れた食事からビタミンを摂取することは健康を守る上で大事なことです。
これまでの研究結果を踏まえると、運動のポジティブな効果を最大限に活かすためには、高容量のビタミンCおよびビタミンEの摂取は避けたほうがよいと言えるでしょう。
資料
1)Curr Sports Med Rep. 2023; 22(7): 255-259
2) Int J Sports Med. 2024; 45(7): 485-495.
3) Redox Biol. 2016; 10: 191-199.
“運動は薬”外来の詳しい内容はこちら
https://www.miyanomori.or.jp/undou/
<プロフィール>
鐙谷 武雄(あぶみや たけお)
当院副院長、専門は脳神経外科で、中でも脳血管障害(基礎研究に長らく従事してました)
運動習慣は、出来るだけ毎日のストレッチと8㎏ダンベルでの筋トレ、週2回程度のランニング、不定期の10分間HIIT(高強度インターバルトレーニング)、たまのゴルフです