米国で脳卒中予防ガイドラインの2024年度版が発表されました
新年あけましておめでとうございます。今年も「運動は薬」外来のブログを毎月更新していきたいと思っておりますので、引き続きよろしくお願い致します。ということで、今年初回、通算第15回目のブログになります。
米国には、心臓病や脳卒中の予防・治療を推進する非営利団体 American Heart Association/American Stroke Association(米国心臓協会/脳卒中協会)があります。この団体は心臓病、脳卒中に関する主要な学会の開催、評価の高い学術雑誌の発行を行い、診断や治療に関するガイドラインを定期的に発表しています。2024年のStroke 12月号に2024年度版の脳卒中の一次予防のための最新のガイドラインが掲載されました。 2014年以来の10年振りの改訂となります。今回のガイドラインでは脳卒中予防のための基本となるコンセプトとして“Life’s Essential 8” が提示されています。これは「健康な人生を送るための主要な8項目」を意味し、1健康的な食事、2習慣的な身体活動、3血糖コントロール、4適正体重、5脂質の管理、6血圧の管理、7禁煙、8睡眠時間の維持、が重要としています1)。
本ブログのテーマである“運動”に関連して、8項目の中の“身体活動”に関する記載を紹介したいと思います。身体活動が脳卒中予防に効果的であることは、複数の観察研究おいて、身体活動量が多いほど、冠動脈疾患、脳卒中、全死亡率のリスクが低いという結果により示されています。本ガイドラインも、2018年に米国保健福祉省から出された身体活動に関するガイドラインに基づき、「成人では週に150分の中強度身体活動(例:速歩)、75分の高強度活動(例:ランニング、ジョギング)、またはその組み合わせを行うことが望ましい」(第10回目のブログで紹介したものです。)という内容を推奨しています。さらに、身体活動の利益は、1〜150分/週の活動においても時間の長さに応じて増加しており、身体活動の時間が短くてもその利益が現れ始めることより、「どのような身体活動でも何もしないよりは良い」としています。ただし、理想的には前述の推奨量を達成することが最も効果的です。現在、この運動量を達成している米国の成人は20%に過ぎず、さらなる啓蒙や支援が必要としています。そして運動・身体活動の対極にある座位行動(第4回目ブログで紹介した座ったままの動かない状態:sedentaryのことです。)が長時間になると脳卒中リスクが増加するとしています。1日6.5時間以上の座位行動で時間当たり6%、11時間以上では21%も脳卒中リスクが高まるという研究結果があります。身体活動を増やすことで座位行動の悪影響を相殺できる可能性もありますが、両者が独立した影響持つ可能性があるため、今後これらの関連性、相互作用についての研究が必要としています。
“Life’s Essential 8”、そして、その中の“習慣的な身体活動”の重要性は米国の人々のみならず、もちろん日本人にも当てはまる事柄です。新年を迎えるに当たり、このような考えを取り入れて、生活習慣を見直す機会にして頂ければと思います。
資料
1) Stroke. 2024; 55(12): e344-e424.
“運動は薬”外来の詳しい内容はこちら
https://www.miyanomori.or.jp/undou/
<プロフィール>
鐙谷 武雄(あぶみや たけお)
当院副院長、専門は脳神経外科で、中でも脳血管障害(基礎研究に長らく従事してました)
運動習慣は、出来るだけ毎日のストレッチと8㎏ダンベルでの筋トレ、週2回程度のランニング、不定期の10分間HIIT(高強度インターバルトレーニング)、たまのゴルフです