運動で爽快感を得る様に、運動はメンタルヘルスにも良い効果があります
「運動は薬」外来のブログ第13回目です。今回は、メンタルヘルス(精神的健康状態)に対する運動の効果を紹介します。
誰しも運動後に心地よい汗をかいて、爽快感を経験したことがあると思います。このような運動による精神的な好影響は、単なる“個人の感想”にとどまらず、精神科疾患の予防や改善につながることが近年明らかになっています。
米国で120万人を対象とした横断研究(ある特定の集団を対象に、ある一時点でのデータを収集・分析する研究)では、運動をした人としなかった人を比較した結果、運動をした人の方がメンタルヘルスの悪い日数が月あたり1.49日、43.2%少なかったと報告されています1)。全ての運動タイプで効果がありましたが、特にチームスポーツ、サイクリング、有酸素運動やジムでの活動で明瞭な効果を認めました1)。
うつ病の発症リスクに対する運動の効果を検討するために、複数の前向きコホート研究(運動習慣の有無でグループ分けをし、一定期間追跡し、うつ病の発症にどのように影響するかを検討)をまとめたメタアナリシス(前回のブログでも出てきましたが、複数の研究の結果を統合し、ある要因が特定の疾患と関係するかを解析する統計手法です)研究が2022年に報告されています2)。15件のコホート研究を解析し、約19000人分のデータをまとめた結果、8.8MET-時間/週の運動を行うと、うつ病の発症リスクが25%低下しました。速歩が4-5METの運動とされていますので、週に2時間の速歩を行うことで達成できる運動量になります。また、時速8-9㎞程度のランニングであれば1時間行うことで達成できます。また、半分の運動量の4.4MET-時間/週の運動でも、うつ病の発症リスクが18%低下したことが示されています2)。
精神疾患全般に対する運動の効果を検討したアンブレラレビュー(複数のメタアナリシスを統合的に分析した包括的な評論)が今年発表されました。このレビューでは7件のメタアナリシスに基づき解析した結果、うつ病では運動のリスク軽減効果は明瞭で、年齢、性別、地域に関係なく認められました3)。運動強度との関連では、軽度から中等度強度の運動では効果が安定していましたが、高強度運動では効果にばらつきがありました。また、うつ病以外の疾患では、不安障害に対する運動の効果が明瞭でしたが、統合失調症/サイコーシス(精神症)では不明瞭でした3)。
うつ病の治療に運動を用いることについての研究も進んでおり、こちらも今年、メタアナリシスの結果が報告されました4)。218件の研究を用い、約14000人のデータを解析した結果、運動は単独でも他の治療と併用しても治療効果を認めました。特にウォーキング/ジョギング、ヨガ、筋力トレーニングで効果的であり、ヨガや筋力トレーニングは継続しやすいという特徴もありました4)。
メンタルヘルスに心配のある方は、少しずつで良いですので、運動を始めてみることをお勧めします。運動後の爽快感、達成感は気分を上向かせ、メンタルヘルスは確実に良い方向に向かうものと思います。
文献
1) Lancet Psychiatry. 2018; 5(9):739-746.
2) JAMA Psychiatry. 2022; 79(6): 550-559.
3) Neurosci Biobehav Rev. 2024; 160: 105641.
4) BMJ. 2024; 384: e075847
“運動は薬”外来の詳しい内容はこちら
https://www.miyanomori.or.jp/undou/
<プロフィール>
鐙谷 武雄(あぶみや たけお)
当院副院長、専門は脳神経外科で、中でも脳血管障害(基礎研究に長らく従事してました)
運動習慣は、出来るだけ毎日のストレッチと8㎏ダンベルでの筋トレ、週2回程度のランニング、不定期の10分間HIIT(高強度インターバルトレーニング)、たまのゴルフです