運動にはがん予防効果もあることがわかってきました
「運動は薬」外来のブログ第14回目です。今回は、運動によるがんの発症および進行の予防効果について紹介します。
これまで高血圧、肥満、糖尿病などの生活習慣病における運動の予防効果についてお伝えしてきましたが、多くの方が特に疑問を抱くことなく納得されたのではないでしょうか。一方で、「がんにも効果があるの?」と半信半疑に思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、近年の疫学的観察研究により、いくつかのがんについては運動によって発症率が下がることが分かってきています。
米国国立がん研究所のウエブサイトでは、以下のがんでは運動習慣があることで発症が抑制され、その発症低下率は概ね20%前後であることが示されています1)。
・膀胱がん 15%低下
・乳がん 12-21%低下
・大腸がん 19%低下
・子宮内膜がん 20%低下
・食道がん 21%低下
・腎がん 12-23%低下
・胃がん 19%低下
運動によってがんが予防できるメカニズムにはまだ完全には解明されていませんが、いくつかの可能性が考えられています。運動によって体の中で起こり得る効果として、遺伝子に傷をつけてがん発生の引き金となる活性酸素の産生を抑制する、がん細胞を排除する免疫機能を強化する、がん発生に関与するとされるホルモン過剰分泌(エストロゲンなど)を抑制する、がん細胞の増殖につながる高インスリン状態を改善する、腸管運動・胆汁分泌を調整して消化器のがん発生を防ぐ、などが知られています。
また、がんと診断された患者においても、運動が予後改善に働くとされており、以下のがんでは死亡率の低下が示されています1)。
・乳がん 42%低下
・大腸がん 38%低下
・前立腺がん 45%低下
その他、がん治療における運動の効果として、化学療法・放射線治療における治療耐久性の向上、生活の質(QOL)の改善なども挙げられています。
マサチューセッツ総合病院のがんセンターではがん患者向けの運動フィットネスのためのビデオをウエブサイトで公開し、がん患者に積極的に運動を行うことを勧めています2)。今後、さらにエビデンスが蓄積されれば、糖尿病における運動療法のように、がん治療の場面でも運動療法がより広く取り入れられる日が来るかもしれません。
資料
1)https://www.cancer.gov/about-cancer/causes-prevention/risk/obesity/physical-activity-fact-sheet
2)https://www.massgeneral.org/cancer-center/patient-and-family-resources/supportive-care/lifestyle-medicine/exercise-videos-for-cancer-patients
“運動は薬”外来の詳しい内容はこちら
https://www.miyanomori.or.jp/undou/
<プロフィール>
鐙谷 武雄(あぶみや たけお)
当院副院長、専門は脳神経外科で、中でも脳血管障害(基礎研究に長らく従事してました)
運動習慣は、出来るだけ毎日のストレッチと8㎏ダンベルでの筋トレ、週2回程度のランニング、不定期の10分間HIIT(高強度インターバルトレーニング)、たまのゴルフです