運動は短期的にも長期的にも血圧を下げる効果を持っています
〝運動は薬〟外来のブログの第2回目です。
今回は、運動と血圧の関係について紹介します。
運動すると筋肉に血液を送り込むため心拍出量が増加して血圧は一時的に上昇しますが、その後は血管内皮より一酸化窒素(NO)が分泌されて、その血管拡張作用により血圧は低下していきます。運動により短期的な一日の中でも、また長期的な数週間から数か月の間でも血圧を下げる効果があることがいくつかの臨床研究から明らかになってきています。
短期的な1日の中で行った研究では、肥満高齢者を以下の①から③の3群に分け、朝の8時から16時までの8時間において、血圧を経時的に測定しています。
① 座位のみ
② 1回の運動(1時間目に30分歩行)
③ 複数回の運動(②+30分間隔で 3分の歩行)
3群の比較では、平均収縮期血圧でみると、①が最も高く、③が最も低く、その差は5.1mmHgで有意差を認め、通勤と仕事中の歩行程度の運動でも血圧が下がることが分かりました(文献1)。
長期的な効果については、53の臨床研究をひとまとめに検討したメタアナライシスという手法で、定期的な有酸素運動が血圧を有意に下げると示されており(文献2)、さらに既に降圧剤を3剤以上服用している難治性高血圧患者においても8~12週間の有酸素運動が拡張期血圧を5.9mmHg有意に下げたと報告されています(文献3)。
しかしながら、運動をすると血圧が上昇したまま下がらない方がいるのも事実です。このような現象を運動誘発性高血圧と呼んでおり、特に運動後に男性で>210mmHg(60以上の上昇) 、女性で>190mmHg (50以上の上昇)となるような場合は心血管病発症が36%高いとされています(文献4)。この運動誘発性高血圧は原因として、長期の高血圧で血管の正常な機能が損なわれ、運動による一酸化炭素(NO)分泌等の生理的な血管拡張反応が生じなくなっていることが考えられます。
しかし、このような方でも、生活習慣を整え、少しずつ運動を負荷して継続していくことで血圧が下がっていくことが期待されます。当院の“運動は薬”外来で定期的な運動を開始された方の中にも最初の3~4か月は血圧が上昇しましたが、その後は下がってきた方を経験しております。
このブログを目にされた方には、定期的な運動習慣と日々の血圧測定を行って頂いて、運動の効果を実感して頂きたいと思っています。
文献
1) Hypertension. 2019;73(4):859-867
2) Ann Intern Med. 2002;136(7):493-503
3) Hypertension. 2012;60(3):653-8
4) Am J Hypertens. 2013 26(3):357-66
“運動は薬”外来の詳しい内容はこちら
https://www.miyanomori.or.jp/undou/
<プロフィール>
鐙谷 武雄(あぶみや たけお)
当院副院長、専門は脳神経外科で、中でも脳血管障害(基礎研究に長らく従事してました)
運動習慣は、出来るだけ毎日のストレッチと8㎏ダンベルでの筋トレ、週2回程度のランニング、不定期の10分間HIIT(高強度インターバルトレーニング)、たまのゴルフです。