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運動は糖尿病治療において大きな役割を果たします

更新日:2024年02月28日
〝運動は薬〟外来

〝運動は薬〟外来のブログの第5回目です。今回は、糖尿病治療における運動の効果について紹介します。

糖尿病の治療は食事療法、運動療法、薬物療法の三本柱からなりますが、食事と運動の生活習慣の改善が薬に負けない大きな効果を上げることが示されています。糖尿病の前段階と言える耐糖能異常を認める3000人において、①運動/減量治療群(150/週の運動と前値体重から7%の減量)、②薬物(メトホルミン)治療群、③未治療群で糖尿病の発症率を検討した研究がありますが、未治療との比較の結果、運動/減量治療(58%低下)の方が薬物治療(31%低下)より糖尿病の発症率を下げていました1)。運動の種類については、有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、水泳など)はインシュリンのシグナル伝達を強化し、レジスタンス運動(スクワット、ダンベル、腕立て伏せなどの筋トレ)は筋肉量を増やし、それぞれインシュリン感受性を高めてインシュリンの効きを良くすると考えられています2)。厚生労働省の健康情報サイトe-ヘルスネットでは、糖尿病の運動療法として中等度の強度の有酸素運動を週に3回以上、トータルで150分かそれ以上行うこと、さらに週に23回のレジスタンス運動を行うことを勧めています3)

どの程度の運動でどの程度の効果が出るのかについては最近、複数の研究データを組み合わせて検討した研究の結果から、運動量とHbA1c(過去1~2か月間の血糖値の平均を反映する数値)の変化量の関係が明らかになっています。それによると運動量(運動強度と時間の積)が増えるとHbA1cは低下していきますが、あるところで最低値を取った後に逆に上昇するというJカーブ現象を示していました。運動強度の単位であるMETという指標を用いると、HbA1cが最も下がる運動量は1100MET・分/週であり、重症糖尿病患者で0.7~1.0%程度、前糖尿病患者で0.2~0.4%程度低下していました4)。この運動量は毎日30分程度の早歩き(4~5MET相当)で達成できるものですが、もし8MET相当のランニングを1時間行うのであれば、週2回走ることでも達成できます。Jカーブ現象が生じる原因としては、過度の運動が細胞内のエネルギー産生装置のミトコンドリアの機能障害を起こすためと考えられています。ここでも過度の運動が逆効果になることが示されており、どの疾患予防にも当てはまる現象で興味深く感じました。毎日30分程度の早歩きは運動量として多いと思われる方もいるとは思いますが、これは最大の効果を得るための運動量であり、その半分の運動量であってもHbA1cが十分下がる効果はありますので、出来るところから運動を開始していただければと思います。

文献
1) N Engl J Med 2002;346(6):393–403
2) Compr Physiol. 2013; 3(1):1-58.
3) https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-05-005.html
4) Diabetes Care. 2024;47(2):295-303

“運動は薬”外来の詳しい内容はこちら
https://www.miyanomori.or.jp/undou/

<プロフィール>

鐙谷 武雄(あぶみや たけお)
当院副院長、専門は脳神経外科で、中でも脳血管障害(基礎研究に長らく従事してました)
運動習慣は、出来るだけ毎日のストレッチと8㎏ダンベルでの筋トレ、週2回程度のランニング、不定期の10分間HIIT(高強度インターバルトレーニング)、たまのゴルフです。