ブログ

過ぎたるは及ばざるが如し、は運動にも当てはまるのでしょうか?

更新日:2024年08月23日
〝運動は薬〟外来

「運動は薬」外来のブログ第11回目です。

このブログでは、運動が健康維持や疾病予防に繋がることを紹介してきましたが、どの程度まで運動を行っても大丈夫なのか、また、“過ぎたるは及ばざるが如し”ということはないのか、という点は気になるところです。

まず、比較的短期間の運動で生じる問題として、オーバートレーニング症候群があります。これは、競技アスリートに見られる現象として知られており、過剰なトレーニング負荷に対して回復が追いつかず、競技パフォーマンスの低下を引き起こす現象です。進行すると、運動能力の低下だけでなく、日常生活においても全身倦怠感、食欲低下、体重減少、さらには精神症状が見られるようになります。他覚的には、安静時心拍数の増加や安静時血圧の上昇が生じます。対処法としては、トレーニングを控え、十分な休養を取り、症状がなくなるのを待ってから少しずつトレーニングを再開する必要があります。

長期的な運動の影響としては、持久性の運動によって心血管系に変化が生じることが報告されています。スウェーデンのクロスカントリースキーヤー20万人を対象とした研究では、競技回数が多く、より早いタイムで滑る男性スキーヤーほど、心房細動の発症率が高いことが示されました。しかし、一般の心房細動患者と比較すると、脳卒中や死亡の発生率は低い傾向にあるとされています1)。一方、別の研究では、サイクリング、ランニング、トライアスロンなどを行っている中高年アスリート約1,000名を対象に調査した結果、20%が心房細動を発症し、3%が脳卒中を発症、そのうち半数の脳卒中が心房細動と関連していたことが報告されました。この研究では、心房細動を発症すると、他の脳卒中の危険因子がなくても脳卒中のリスクが増加する可能性があるとされています2)。その他の中高年持久競技アスリートで見られる心血管系の変化として、心筋内の線維化や冠動脈の石灰化プラークの発生が挙げられます。これらは無症状で画像的に観察されたものであり、病的意義については今後さらなる検討が必要です。

運動量と疾病発症率については、Jカーブ現象(横軸の変数が大きくなると減少するが、ある程度以上大きくなると逆に増加する現象)が認められることが報告されています。英国での110万人を対象とした研究では、高強度の運動を週3回程度行うことで、冠動脈疾患、脳卒中、静脈血栓症の発症が減少しましたが、毎日行うとその効果は失われていました3)。また、米国での5万人を対象としたランニング習慣と心疾患死の関連についての研究でも、週3回が最も予防効果が高く、回数が増えるとその効果が弱まり、6回以上になると最も効果が弱くなっていました4)

これらの結果を総合すると、やはり運動にも“過ぎたるは及ばざるが如し”が当てはまるのではないかと考えられます。自分の体力に合わせて“適量の薬”として運動を行っていただければと思います。

文献
1)Circulation. 2019; 140(11): 910-920.
2) Clin J Sport Med. 2023; 33(3): 209-216.
3) Circulation. 2015;131(8):721-9.
4) J Am Coll Cardiol. 2014;64(5):472-81.

“運動は薬”外来の詳しい内容はこちら
https://www.miyanomori.or.jp/undou/

<プロフィール>

鐙谷 武雄(あぶみや たけお)
当院副院長、専門は脳神経外科で、中でも脳血管障害(基礎研究に長らく従事してました)
運動習慣は、出来るだけ毎日のストレッチと8㎏ダンベルでの筋トレ、週2回程度のランニング、不定期の10分間HIIT(高強度インターバルトレーニング)、たまのゴルフです。