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運動は認知機能を高めてくれるのでしょうか?

更新日:2024年10月04日
〝運動は薬〟外来

「運動は薬」外来のブログ第12回目です。今回は、運動が認知機能に及ぼす影響について、動物実験による基礎的研究、ヒトを対象とした観察研究や介入研究の成果をもとに、現在わかっていることを紹介します。

動物実験では運動することで認知機能が強化される(例:迷路で迷う時間が短くなるなど)のことが示されています。その要因として、脳血流量の増加、神経栄養因子(BDNF)の増加、神経回路の形成の促進などが報告されています。

ヒトを対象とした観察研究では、運動習慣があると加齢に伴う認知機能低下が少ないことが示されており、認知機能が正常な高齢者4600人を5年間追跡した研究では、中等度強度以上の運動習慣があると認知症の発症リスクが低く抑えられていました1。また、同様の高齢者1700人を6年間追跡した別の研究では、運動習慣が週3回以上ある群とそれ未満の群を比較したところ、3回以上の群で認知症の発症リスクが38%低下していました2。こうした観察研究の結果を受けて複数の介入研究が実施されています。

介入研究では偏りのない均等な2群を作成し、一定期間にわたり一方の群には介入(運動プログラムを施行)を行い、他方の群には介入を行わずに、期間終了時点での効果(認知機能の優劣)を比較検討します。これらの研究を統合して検討し、より信頼性の高い結論を導く手法をメタアナリシスと言います。2024年の最新のメタアナリシスでは、以下の二つの報告があります。認知機能の低下がみられる60歳以上の高齢者において、1時間程度の有酸素運動と筋力/持久力/バランスなどを組み合わせた運動プログラムを週2-3回行うことで、認知機能が改善しました3。また、65歳以上のアルツハイマー患者2200人分の検討では、660MET-/週の運動が認知機能の改善につながりました4。これは早歩きの運動(5MET程度)を週に2時間程度行うことで達成できる運動量に相当します。このように運動が有効というデータがある一方で、あまり効果がなかったという報告もあります。物忘れを自覚しているが検査では認知機能低下のない65歳以上の高齢者に対し、6か月間の運動介入を行っても認知機能は強化されませんでした5。また60歳以上の認知機能の正常な高齢者を対象としたメタアナリシスでも、運動が認知機能に効果があるという結果は得られませんでした6

これらの介入研究の結果は、認知機能の低下が既にある場合は効果が出やすい一方で、認知機能が正常な場合には効果が出にくいということを示唆しています。これは、日常的な身体活動が認知機能低下のある人では乏しいのに対し、正常な人では豊富であることから、運動介入のインパクトが前者では大きく、後者では小さいためと考えられます。そのため、観察研究のように長期間の追跡を行わないと、健常な人における運動効果が認知機能に現れにくいではないかと考えられます。

以上まとめると、健常な人と認知機能の低下のある人で効果の出方に差はあるものの、運動は認知機能の維持および改善に有効であると考えられます。

文献
1) Arch Neurol. 2001; 58 (3): 498-504
2) Ann Intern Med. 2006;144 (2): 73-81
3) Arch Gerontol Geriatr. 2024; 124: 105450.
4) BMC Geriatr. 2024; 24 (1): 480
5) JAMA. 2022; 328 (22): 2218-2229.
6) Geroscience. 2024; 46 (2): 2641-2651.

“運動は薬”外来の詳しい内容はこちら
https://www.miyanomori.or.jp/undou/

<プロフィール>

鐙谷 武雄(あぶみや たけお)
当院副院長、専門は脳神経外科で、中でも脳血管障害(基礎研究に長らく従事してました)
運動習慣は、出来るだけ毎日のストレッチと8㎏ダンベルでの筋トレ、週2回程度のランニング、不定期の10分間HIIT(高強度インターバルトレーニング)、たまのゴルフです